違う世界で、再びお父さんと白崎さんとわたしで、ドールショップ「塊」を始めたある日のこと。
とても暑いので、今日のおやつはかき氷にした。
たまたま、お父さんの仕事で入った、氷人形の仕事で余った氷を使って。
最近は、お父さんも西洋ドールだけでなくて、氷の彫刻人形とか、日本人形、何でも作るようになっていた。
「ローゼンを超えるには、ローゼンとは違ったアプローチで……」が、最近のお父さんの口癖だ。
「えーと、それじゃかき氷作るよ。みんな、どのくらい？」
「僕はたっぷり。もうイヤ、っちゅうくらいに盛ってね」
と、ラプラス……いや、白崎さん。
「うむ。……程々かな」と、お父さん。
シャカシャカシャカシャカ……どこで調達してきたのか、本業の氷屋さんに置いてあるような氷かき機で、ひんやり冷たく、かすかに汗をかいた透明で大きな氷をかいた。
ふー。
シャカシャカシャカシャカシャカ……まぁ、こんなモノかな。
わたしは、家にある一番大きなガラスのボウルにかき氷を入れて、ヨイショ、ヨイショと、テーブルに運んだ。
ガラス越しに、ひんやりとした氷の感触が、手に痛いほどだった。
器は、みんなそれぞれ自分で用意している。
わたしは、朝顔型のパープル色のガラス鉢。
ちょうど、お茶碗一杯くらいと同じくらい。
お父さんは、陶器製の冷蔵庫でひんやりと冷やしたかき氷鉢。
うっすら霜が降りて、涼しげだ。
そして、白崎さんは……ラーメンどんぶりだった。かき氷にしては、大きすぎる。
「白崎さん、それじゃ美味しくないと思うよ。もっと良い入れもの、持ってきてあげようか？」
「いえいえ。これで結構。僕は沢山食べるのが趣味なの」
とりあえず、そのままそれぞれの器にかき氷を入れた。
わたしは、苺シロップ。
お父さんは、宇治金時。
そして、白崎さんは……
「通は、氷の味そのものを楽しむもんなんだよね」
というなり、大量のかき氷を特大のスプーンで口に頬張ると、一気に飲み下した。
あっ、そんな急に食べると……。
「くわー！！キター！！ ぐわわわー！ 頭に、あたまに。アタマにずーんと、これがまた、ああっ！いいっ！ あはあっ！」
案の定。
でも、喜んでいるみたい。
「……水晶、あんまり見ちゃダメ。それより、氷が良く削れていて、流石わたしの娘だけはある。良い腕だ……あ、うくっ」
どうやら、お父さんもアタマにキンと来たようだ。
しかし、いつもの通りポーカーフェイスは崩さない。
わたしは苦笑すると、ザクザクと、蜜と、氷を混ぜてから、銀色のスプーンで口に頬張った。
冷たーい。お口の中で氷がさわっと溶けて、涼しさ広がっていく。美味しい。
甘酸っぱい、イチゴの香りと味が心地よい。
ついつい、気持ちよさに次々と薄いイチゴ色のかき氷を頬張る。
そしたら、わたしもツーン、と……思わず目を閉じて、冷たさに耐える。
もう、最高。
「あわーっ！ 冷めてー、サイコー！ おわあぁっ」
「もくもくもく……うっ。くくくく……・」
「はあっ。冷たぁい。でも美味しい」
こうして、ドールショップ「塊」のけだるげに蒸し暑い午後のひとときは過ぎていくのであった……。
おわり
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