今日はクリスマスイヴなのだそうだ。
ラジオ、それにテレビで盛んに言っている。
でも、お父様は。
「この国のクリスマスは……ちょっと異常だね」
「そうですね。もともとぼくたちは、キリストに足を向けて寝ているようなものだし。ははっ。キリストじゃなくて仏様か。こりゃ参った」
と、白崎さんも同意する。こんな具合だ。
だから、うちにクリスマスはない。
蒼星石も、
「クリスマス？ ああ、ポストカードもちゃんと作ってあるし。準備万端。それより、飾り付け用の柊を、今日は１０本くらい頼まれているんだ。ああ、忙しいよ」
最近は、本業？の庭師稼業に忙しい。
買い物に出かけた。
街は、クリスマスの電飾やら、クリスマスソングで華やかだ。
ケーキも売っている。クリスマス用だ。それは大量生産の、安っぽい箱に入ったものに見えた。でも……なぜか欲しくなる。
七面鳥ではなくて、鶏の照り焼き。リボンが添えてある。妙に気になる。
一つを手にとって、じーっと見つめる。
「はぁ」
ため息をつくと、元に戻した。
けっきょく、普通のこんだて用の材料を買い集めると、なぜか恥ずかしい気がしつつ、家に戻った。
夕飯の材料をテーブルに並べると、ひとまずお茶を入れて、一息つく。
ボーッとしてしまった。
あの桜田家でも、クリスマスをやっているんだろうなぁ…………。
「みんなー、今夜はクリスマスよ。ケーキと鳥さんを食べましょう」
ジュンのお姉さん、のりが二階に声を掛ける。
「クリスマスケーキ、イチゴがたっぷりなのー」
その横で、雛苺が嬉しそうに声を上げる。
それに呼ばれて、渋々とジュン、真紅、翠星石が降りてくる。
「ったく、クリスマスだなんて……くだらないケーキの日じゃないか」
「どうもこの国のクリスマスは、何か妙ね」
「そうですよ、もともとクリスマスは一日だけじゃないですぅ。日本でいうところの正月明けまで、ずーっと祝う由緒正しいお祭りなのですよ」
みんなそれぞれに、文句を言いながら。
「それじゃみんな、メリークリスマス」
なんだかんだ言いつつ、みんなそれぞれシマシマの三角帽をかぶり、クリスマス用のリボンや金玉銀玉、星などで飾り付けられたダイニングで、クラッカー片手に、ジュンのお姉さんの音頭に合わせて、
「メリークリスマ……（ス。って）（ス、なのー！）（ス。ほんと、下品なお祭りね）（ス、ですですぅ！）」と、クラッカーを弾かせる。
それから、一通りコースになった、のり姉さん自慢の料理を食べる。
前菜、スープ、そしてメインディッシュは……。
「ただ？の、鳥の丸焼きですか？」
「あっ。違うよー！ 中にカレーピラフが入ってるぅ！！」
「ふーん。パクっと……うん。まぁまぁってところです。ムクムグ……うんうん」
「ただの鳥の照り焼きをこんな風に工夫するとは……のりもやるわね。何よりも、付け合わせの、このくんくんの形をしたキャロットのソテー……良い仕事をしているわ。さすが、わたしが見込んだだけはあるわ」
と、みんなで楽しく食事をした後、ケーキが。
これもお姉さん、のり特製のケーキだろうなぁ。
一番喜ぶのは雛苺。
「いちご、いちご、ケーキっ、ケーキっ！」
「今日は好きなだけ食べていいのよ、ヒナちゃん。苺も３割り増しよ」
「んうをぁーいっ！！」
ケーキにかぶりつく雛苺。
「雛苺。お行儀よく食べるのだわ。それにしても、このシャンペン、なかなかだわ。銘柄も年代も上々……ヒクッ。あ、い、今のはわたしではないのだわっ」
「ふふーん、聞いちゃったぁ。聞いちゃったぁ。真紅ったら、げ・ひ・んですぅ。でも、それよりも、それよりも……なんで蒼星石がここにいなんですかぁ。蒼星石、姉は悲しいですよ。どうして一緒にいられないのですかぁ。とても、とても悲しいのです。オーイオイオイ」
なぜか様子が変な二人。
「何だよ、真紅ぅ。よ、酔っぱらったんじゃないのか？ ぼ、ぼくもなんだか……あー、地球が回ってるう」
「え？ まさかシャンメリー（商標）で酔っぱらうわけなんて。あ……あら、これはパパとママ秘蔵の、ビンテージシャンパン。し、しまったぁ。てへ」
どうやら、のり姉さんはノンアルコールのシャンペンもどきじゃなくて、本物のシャンペンをテーブルに供したらしい。
「わ、わたし、酔っていないのだわ。でも、う、歌を歌うのだわ。ララララ……」
「蒼星石ぃ……オーイオイオイ」
「巴のパンツはいつも白！」
「何よう、ジュン君。こんな魅力的なお姉さんがいるのに、なんで他の女の子に。ダメよ、ジュン君。お酒なんか……んー、酔ったジュン君もカワイイっ！抱きつきっっっ！！」
「うわぁっ」
「……ほえ？ みんな、何してるの？」
一人、取り残される雛苺。そして、収拾がつかなくなった。
ハッ、と目が覚めた。
うたた寝していたらしい。
（また……この手ね。ちょっとマンネリなんじゃない？）
そこは、キレイに飾られたホームクリスマスパーティの会場。
テーブルには、クリスマスケーキと、鶏のもも肉の照り焼き、そしてオードブル。
ジュースやシャンペン。
「どう？ このクリスマスツリー、僕が飾り付けたんだ」
見ると、蒼星石が立つ横に立派なクリスマスツリーが。とても立派だ。ちょっと、テレ気味の蒼星石。
「ナイショにしてろ、っていわれてたんだよ」
「そう。今日はクリスマスイヴ。さあ水晶、一緒に祝おう」
「そうですよ。ちょっと騙した形になったけど、勘弁してね」
わたしは、驚いたり嬉しかったり。ちょっぴり、涙腺が……。
「ああ、涙はダメダメ」
「うん。とにかく、身支度をしておいで。水晶」
「はい」
わたしは、ちょっとだけおしゃれな、お気に入りのよそ行きに着替えることにした。
おわり
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