ここはどこかの学校。
生徒はたったの５人。
名前はそれぞれ金糸雀、翠星石、蒼星石、雛苺、そして雪華綺晶でした。
そして先生の名前は真紅。いずれも人間のように動くお人形さんです。
「はい。みんな静かにして。今日は実験動物を使って、ローザミィスティカの特性を学びます」
真紅がそういうと、病弱そうなパジャマ姿の少女が、一体の人形を大きな鳥かごのような檻に入れて連れてきました。
「ぜぇ、ぜぇ……真紅先生、連れてきました」
少女は息も絶え絶えに言いました。かなり、体が弱い様です。
「はいお疲れ様ね。横で、休んでいなさい」
「はぁい」
そういうと、少女は教室に備え付けのベッドに横になり、休みました。
少女の名前はめぐ。なんで教室にベッドがあるのか？ それはナイショです。
「それでは、実験を始めるのだわ。これは、凶暴な水銀燈というお人形。ちょっと、起こしてみるわ」
真紅は、そういうと手に持ったステッキで、かごの外から、中で眠っている水銀燈をツンツン、とつつきました。そして、こう言いました。
「起きなさい、ジャンク」
刹那、水銀燈と呼ばれた人形はパッと目を覚まし、真紅めがけて襲いかかろうとしました。しかし、かごに阻まれて、外に出られません。まるで野獣です。
「ちょっと！ なによコレ！！ 出しなさいよ！ 真紅！！ あなた、ブローチをお父様に貰ったからっていい気になっているんじゃないわよ！！！ この偽善者！」
水銀燈は、顔に青筋立てながら、かごをグイグイとこじ開けようとしました。
しかし、頑丈な鋼のケージは、ビクともしませんでした。
「な……何ですって。ぎ、偽善者、ですってぇ？ なによ、ジャンクのクセに。こ、この……」
「せ、先生こわぁいよぉ……うぇーん」
真紅先生は、水銀燈に偽善者と言われてしまったことが、よほど頭に来たみたいでした。とっても怖い顔になり、そのあまりの怖さに、雛苺は泣き出してしまいました。
その泣き声に、はっ、と真紅先生は我に返りました。
「し、失礼したのだわ。オホホホホ。ごめんなさい、雛苺。さぁ、今日はこの凶暴な水銀燈に、あることをします。すると、不思議なことがおきます」
あわててその場を取り繕う真紅をよそに、水銀燈は一生懸命にかごを蹴飛ばしたり、背中の黒い羽根をかごの鉄格子に絡ませ、こじ開けようとドタバタしていました。
「なめてんじゃないわよ……なめてんじゃないわよ！ 早く出しなさい！ このペテン師ぃ！！」
ペテン師という言葉に、またもピクリ、と反応したものの、今度は真紅先生も落ち着いていて、少しだけ頬を引きつらせただけでした。
でも、敏感な金糸雀は、真紅先生が内心、怒り狂っているのを見抜きました。
「こ……こわいカシラ」
「それでは、やってみましょう」
そう言うと、真紅先生はなにやら怪しい呪文を唱えるなり、ステッキを何回か振り回しました。
すると……。
不思議なことに、水銀燈は急に元気を無くして、檻の中にへたれ込みました。
そして、スーッ、と光り輝く宝石のようなものが水銀燈の中から。
「あっ。先生、それは」
早速、蒼星石が興味を示します。
「そうなのだわ。これはローザミィスティカ。でも、みんな見るだけよ。人のものを勝手に取ってはいけないのだわ」
と、生徒のみんなを睨み付けます。生徒達はみんな、真紅先生のあまりの迫力に、ゴクリ、と生唾を飲み込むのでした。
「やっぱり、ヤツがボスザルですぅ」
聞こえないようなごく小さい声で、翠星石がひとりごとを言いました。
雪華綺晶には、まだセリフがありません……当面、無さそうですね。
「それでは、ローザミィスティカは……そうそう、めぐ、あなたが預かっていてね」
ベットの上で横になりながら、『からたちの花』をぼそぼそと歌っている、一見するとあぶない人に見える、いえ、見えてしまいそうなめぐに、真紅は、水銀燈のローザミィスティカを手渡しました。
「それでは、水銀燈を起こしてみましょう」
クーラーボックスから、よく冷えたヤクルトを取り出して、銀紙のフタを開けます。
すると、その甘酸っぱい香りに水銀燈がムク、と起きあがります。
「この匂いは乳酸菌……乳酸菌ね」
そう。水銀燈はヤクルトが大好物です。
「ほらほら水銀燈。起きるのだわ。ヤクルトあげるわよ」
「ヤクルト……ヤクルト……欲しい」
真紅先生は、かごのカギを開けました。ヤクルトの匂いに釣られて、水銀燈が出てきました。
生徒達はびっくり。あの凶暴な水銀燈が、かごから出てきたのですから。
「みんな、大丈夫よ。もうこの子は大人しいから」
真紅先生は、みんなを安心させると、ヤクルトを水銀燈にあげました。
水銀燈は、美味しそうにそれを飲みました。
「ふうっ。美味しかったぁ。ありがとう真紅。やっぱり優しいわぁ」
まるでさっきとは違う、水銀燈の様子に生徒達はとても驚きました。
セリフがないので、雪華綺晶は目から生えている薔薇の花を出したり、引っ込めたりして、驚きを表現していました。
|
