そしてまた時間が過ぎて。
早いもので、もうクリスマスイヴ。
去年は何となく、難色を示していたお父様も、今年はすっかりその気になってしまって、とんがり帽子に赤いトナカイの鼻を付けて、鼻歌交じりに蒼星石とツリーの飾り付けをやっている。
そういえば、白崎さんは?
いろいろと聞きたいことがあるんだけれども、最近、あまり顔を見ない。
「お父様、白崎さんは?」
一生懸命になって、この配置はよくないとか、これは少し……と、蒼星石と文句を言い合いながら飾り付けに夢中のお父様。
「ああ、水晶。あるところに行っているよ……あるところにね」
と言うなり、ツリーの飾り付けにすぐ戻る。でも。
「あわわ」
チャリーンとガラス玉を落としてしまう。
明らかに動揺させてしまったみたい。
わたしはため息をつくと、「お父様。貸して」と、ツリーの飾りを手伝うことにした。
その頃、白崎は……。
「ほらほら白崎。リボンの位置はそこじゃないでしょ? 一体、何度言えばわかるの」
真紅が鋭い口調で白崎に命令していた。すっかり女王様体質、復活であった。
「は、はい」
こうなると、ラプラスの魔も形無しであった。
「ええ、と。鳥の足って、こうやってオーブンに入れてぇ……」
水銀燈は、キッチンで料理にかかりっきりだった。
なにしろ、自給自足の野良乙女生活体験が活きている。
たいていの料理は、料理本と道具と材料、そしてもう一つがあればできてしまう。
「バターライス、こんな感じ? 水銀燈」
あとは手伝い。それはめぐがピッタリだった。
「どれどれ……うん。ちょっとバター多めだけど、いいんじゃなぁい。それより、鳥の足、オーブンに入れる準備をしてね」
「うん。タマネギをたくさん敷いて、ちょっと野菜も入れるんだよね。タレも忘れずに、っと」
めぐも、すっかり乗り気だった。
一方、翠星石は料理はまだ修行中だったので、テーブルの飾り付けが仕事。
「ううむゅ……お皿はこれでいいのかなぁ」
背の小さな雛苺が、それを手伝っている。
「ほらほら雛苺。とっとと並べるですよ」
「雛、小さいから難しいの……」
「しかたない奴ですぅ。ほら、こうやって。チョイチョイ」
「うわー。きれい」
テーブルに並べた皿の上に、ちょっとした翠星石お手製のペーパーデコレーションが載せられた。それは白い皿の上に華やかな色を添えて、翠星石が用意した花瓶に生けた花とともに、テーブルの上を華やかにしていた。
その中、ぽつりとテーブルに座ったままのオディールがいた。
「……」
みんなの様子をぼーっと眺めている。
手はテーブルの上に投げ出して、足はぶらりん、と放ったままだ。
「ねぇオディール、今夜も手足、うまく動かないの?」
雛苺が心配する。
「うん。ごめんね雛苺」
すまなさそうにオディールが謝る。
「あ、オディールちゃん、無理しなくていいから」
キッチンから、めぐが気をつかって声をかける。
たまに手が動くことはあるのだが、それはめぐとのオチャラカホイ、の時くらいで、これがリハビリにもなっているのだが、なかなかリハビリがうまくいかない。
「まったく、役立たずね」
ぼそり、と真紅が陰口をたたいた。
「ほんとにそうですぅ」
翠星石も同意する。
二人揃って、小姑コンビと化していた。
思わず、うつむいてしまうオディール。
めぐはそんなオディールを心配そうに見つめ、水銀燈はチラリと見ると、何か考えたらしく、目を一瞬伏せると、また忙しく調理に戻った。
「まぁまぁ、お二人とも。オディール様には、それなりの理由があるのですよ」
白崎が助け船を出した。
「あら? でも白崎。貴女はいつもその理由とやらを話してくれないじゃないの。他にもあるわ。わたしたちの生活費用をお父様がドールを製作して売ることによって捻出していると説明はするものの、肝心のお父様は姿を見せない。これって、どういうことなの」
真紅が鋭い口調で白崎を問い詰めた。
「それは……ローゼン様は、あくまでもアリスがこの世に成立したときでないと……姿を現さない決まりになっているものですから」
「それはアリスゲームが有効の時だけだわ。でもいまは違う。あの、雪華綺晶とかいう妙なドールのせいでアリスゲームは中断されたわ」
まくし立てる真紅に、怯える雛苺。
「真紅ぅ、怖いの……」
雛苺の弱々しい声に、はっ、と我に帰る真紅。また、カッ、となってしまった自分を恥じる。見ると、翠星石も悲しげな顔をしていた。
オディールは、すっかりうなだれてしまっていた。
いままで、何度こんなことがあっただろうか。
それは、わたしがハッキリしないからだ。
自身、わかっていた。
わたしの秘密。でも、それを明かしたら……。
でも、このままでは。
「大丈夫? オディール」
めぐがキッチンからやってきて、頭を撫でてくれる。
優しい子だ。
そうだ。今夜はクリスマスイヴ。
もしかしたら。
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