そして節分。
どうということはないのだけれども、いちおう、この共同生活を円滑に運ぶための親睦行事として、豆まきが催された。
その一番の推進者は真紅だった。
「みんなで親睦を深めるために、豆まき……この国の独特の文化を味わってみたいのだわ」
節分の一週間ほど前に、そう提案したのだった。
とはいえ、初めはみんな乗り気ではなかった。
「豆がもったいないですぅ」
と、翠星石。実は正月から、真紅は遠回しに何度も、蒼星石との不仲の理由を聞き出そうとしていた。でも、翠星石ははぐらかすばかりで、まったく手応えがなかった。
「豆まきねぇ……わたし、あんまりいい思い出がないなぁ。病院ではよくやってたけど、わたしはいつもサボってたし」
めぐはめぐで、豆まきで何かトラウマがあった様子。消極的だった。
オディールはどちらでもない派。
雛苺はやりたがっている様子。でも、無理に押し通したい様子でもない。
後は水銀燈。
「そうねぇ……豆まきなんてつまんなぁい。やる必要ないんじゃ……」
正直、水銀燈もどうでも良かった。だが、途中で少し考え込むと。
「……まぁ、いいんじゃないの。真紅が全て準備するというのなら。ところで、鬼は誰がやるのかしらね？ そりゃ、言い出しっぺがやらなくちゃあね」
と、前言を撤回した。その代わり、真紅に全てを任せる、という条件付きだ。
事実上このアパートの主である、水銀燈がＯＫを出したことにより、節分に豆まきをすることになった。
「水銀燈、ありがとう」
真紅は礼を言った。
が、その後、水銀燈は真紅と二人きりになった時、軽く釘を刺した。
「あなたが何を考えているのかは大体わかるわぁ。でもぉ、あんまり無理は良くないわ。だって今、二人ともお馬鹿さんの状態、なんだから」
このお馬鹿さん、という形容は言葉通りの蔑称ではなく、特別な意味を持っていた。
「やっぱり貴女には隠せないわね、水銀燈。でも、わたしはここから始めるわ。とにかく、まず第一歩を踏み出さない限り、何も変わらない」
真紅はキッパリと決意を込めて言った。
「貴女らしいわね。でも、下手すると貴女もお馬鹿さんの仲間入り……まぁ、せいぜい気をつけることね」
いつもの通りのちょっと皮肉かがった水銀燈の口調であったが、心からの忠告も込められていた。
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