（この節は水晶の語りになります。読みにくくてすみません）
「遅いわねぇ……蒼星石ったら」
わたしは、お使いに行ってから、かれこれもう１時間は戻らない蒼星石のことが心配になった。
「おや？ どうしたんだい、水晶？ テーブルに座り込んで」
昼からの仕事を終えたお父様がキッチンに現れた。
そして今夜の献立を聞くのが、お父様、そしてわたしたちの日課になっていた。
「はい、それが、今夜はスパゲッティにしようと思ったんだけど、それだけじゃ足りないかなぁと思ってポトフも作ろうかと思ったの。そしたら材料が足りなくて、蒼星石にお使いを頼んだの。そしたら、なかなか帰ってこなくて」
「それは心配だね。警察に電話してみようか？」
妙に真剣になるお父様。
「いやだ。そんな大げさなことじゃ……」
と思った。でも、確かにお父様の言うとおりだ。最近、この辺でも変な人が出没すると聞いている。もしかして、蒼星石が悪い人につかまって。
と、その時。
電話が急に鳴った。
わたしは思わずビックリした。
すぐに店の方で、白崎さんが電話を取ったようだ。遠くから、やり取りの様子がうかがえる。
「……はい。はい。ええ。……えっ！？ ち、ちょっとお待ち下さい」
バタバタと白崎さんがキッチンに駆け込んでくる。
「た、大変です先生。蒼星石が警察に」
「えっ」
「ええっ」
わたしたちは驚いた。
「何だって。とにかく、わたしが出よう」
お父様が電話に出ることになった。
親子電話なので、店の電話もキッチンの電話機で取ることができる。
「はい。そうです。わたしが塊です。うちの蒼星石が何か……は？」
心配になり、お父様のすぐ横で様子をうかがう。
何かに驚いた様子。でも、急に思い当たるような様子になって。
「そうですか。それはどうも。ええ。それでは、これからお伺いします」
電話を切った。
「白崎、わたしはこれから出かけるよ。ちょっと警察まで。タクシーを呼んでくれ」
「はい」
わたしも一緒に行く、とお願いしたが、それは許されなかった。
一体、蒼星石の身に何が起きたのだろう。
わたしは不安で胸が張り裂けそう、になった。
＊
一方、こちらは乙女達のアパート。
こちらでも、オディールの帰りが遅いのを、皆それぞれに心配しているところへ、こちらの世界の巴、から電話が入った。
それを取ったのは真紅だった。
「はい。……です」
アパートの名前を名乗った真紅。
「あら、巴さん。こんにちは。何かしら？……え！？ そんなことが」
あちらの世界では呼び捨てにしていた巴の名前も、こちらの世界では大人の女性なので、失礼の無いようにみんな、さん付けで呼ぶようにしていた。
「どうしたの？」
めぐが心配そうにやってくる。
共通の電話は、玄関に近いところに置いてあるのだ。
「それが……」
めぐに応じつつ、真紅は巴との会話を続けた。
「ええ、ええ……わかったわ。それじゃあ、待っているわ」
と電話を切った。
「大変。オディールがとんでもないことに」
「え、まさか事故にあったとか。どうしても一人で行きたい、と言ってたから」
言葉の最後をにごらすめぐ。出かけることはめぐに伝えて出かけていったオディールであったが、何しろあの手足の状態なので、一人で行くことには反対したのだが、頑としてそれを拒んだので、行かせてしまった。それを後悔しているのだ。
「どぉしたの？」
水銀燈、そして雛苺もやってきた。
雛苺は翠星石の夕げの支度を手伝っていたのを止めて、水銀燈はそんな家庭的な風景をぼうっ、とただ眺めつつ夕方のニュースを見るという至福の時を中断して。
翠星石は、手が離せない。
「それが。オディールが、またあの子と会ってしまったらしくて。そこへ、たまたま通りがかった蒼星石がバトルを挑んでしまったらしいの」
「ふうん。で、結果は？」
水銀燈が動じた様子もなく聞いた。
「さぁ？ そこからはよくわからないわ。ただ、その騒動で近所の方が、この国で言うところの警察、に通報したらしくて、二人とも補導されてしまったらしいの」
「んな、何ですってぇ」
そこへ突然、翠星石が割って入った。もう料理もそっちのけである。
「あの白薔薇ヤローが、蒼星石に何かしやがったのですかぁ」
すっかりおかんむり状態である。
「ま、待って翠星石。細かいことはまだわからないわ。今から、身元引受人として巴さんが警察に行ってくれるそうだわ。だから、わたしたちも誰か一緒についてきてほしい、ってことなの」
そこで、一斉に全員の視線が長女である水銀燈に注がれた。
あら……、と水銀燈は思った。思ったより頼りにされているのねぇ。でも……。
「それじゃあ、真紅と翠星石が行ってきたらぁ？」
ということで決定した。
めぐもついて行きたがったが、水銀燈は警察というところの雰囲気がどんなところか知っていたし、まだ、自分の元ミーディアムにはまだ、刺激が強すぎることになるだろうと、直感で感じて、それは止めさせた。
そうこうしているうちに、巴を乗せたタクシーがアパートの前にやってきた。
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