はぁ……暑い。
今日はお父様のお使いで、街に来ている。
さすがに都会だけあって、平日なのに人混みしている。
お父様が暑気あたりで寝込んでしまったので、代わりにわたしが蒼星石と一緒に、注文の人形を、この街にあるドールショップに届けにやってきたのだ。
ほんとうなら白崎さんの仕事なんだけど、白崎さんは夏休みとかで、どこかに出かけてしまっている。
さっきから、蒼星石がしきりに服の半袖のあたりを気にしている。
「う〜ん」
庭師である蒼星石は、夏でも外に出て仕事をしているんだけど、いつもシャツとズボンの作業着姿なので、顔と首筋、そして腕は一部、肩口だけを残して黒く焼けている。
蒼星石はしきりにそれを気にして、薄い半袖のブラウスから、日焼けの境い目が見えないかどうか気にしながら歩いている。
「ねぇ水晶。見えてないかな？」
「大丈夫よ。蒼星石。むしろ健康的でいいとわたしは思うわ」
「だけど……」
少年的な蒼星石には、似合っている日の焼け方だと思うのに、やっぱり蒼星石の乙女の部分がそれを許さないらしい。
「さっきみたいに、変な人から写真を撮られるんじゃないか、心配だなぁ」
わたしたちは、目立つらしい。
蒼星石の言うとおり、さっき妙に重そうで大きなカメラを持ったおじさんに二人揃って写真を撮られてしまった。何でも新聞社の人だとかで、名刺をもらった。
それで、蒼星石が身なりをしきりに気にしているのだ。
本当はそういうのは、避けたいんだけれど。
だけど、暑さで頭がボーッとしていたので、ついつい撮られてしまった。
あの人、本当に新聞社の人なのかしら？
「そうね。都会は危険な人ばかりだというから、気をつけないとね」
わたしは蒼星石にうなずいた。
それにしても暑い。それでも歩道は人でごった返しで、街路樹がいくぶんかの木陰を作っていて、時折わずかに涼風が吹いてくることもあったけど、アスファルトとコンクリートからの容赦ない熱には、それすらまさに焼け石に水、だった。
久しぶりの都会の街並みに、観光気分もあったけど、これじゃたまらない……と思ったところに、いいものが。
「あ、あそこにパーラーがあるわ。あそこで一休みしましょう」
「うん、いいね。行こう」
歩道に面した巨大ビルの一階に、全面ガラス張りのおしゃれで清潔なパーラーが店を開いていた。わたしたちは、そこで一休みすることにした。
店内は空調が良く効いていて。
さわーっと全身を心地よい空気が包み込んだ。
アベックや子供連れの夫婦、大体６割入りといったところで、ちょうど良い混み具合ね。
「この席がいいよ」
蒼星石は店内の、（蒼星石が言うには）一番勢いのよい観葉植物近くの席を指した。
「うん」
わたしはそれに従った。蒼星石の席取りは上手だから。
フロアがちょっと高くなっているところで、店全体、それに歩道に面したガラスも全体が見渡せて、適度にそれらから距離を保っている。
観葉植物の生気が、炎熱地獄で火照ったわたしたちの体を癒してくれるようだった。
で、何を頼むかメニューを見た。
「あ、僕これがいいね」
机の上に、パウチされたカラフルなお勧めメニューがあり、そこにフルーツかき氷とあった。ちょっと大きめのかき氷の上に、たっぷりとフルーツが乗っていて、フレーバーはそのフルーツのものになっているようだった。
「あ、いいよね、えーと……じゃ、わたしマンゴにしよう」
「僕はミックス」
早速頼んだ。ほどなくして、それが運ばれてきた。
「うわ。思ったより大きいや」
確かに。
早速いただく。
蒼星石は、少し考え込んでから、丁寧にサクサクと氷とシロップを混ぜていく。
フルーツが落ちないように気をつけながら。
わたしは……とにかくまずはスプーンで一口分すくうと、ほおばった。
お口の中に何ともいえない気持ちの良い冷たさが広がって、そのあとにマンゴのフレーバーが追いかけてくる。
「ああ、冷たい。ほわぁ」
いい気持ちだ。
「いただきまーす」
準備のできた蒼星石も、一口。
「うわぁ。おいしい」
しばらくわたしと蒼星石は、お互い無言でかき氷の冷感を楽しんだ。
そして、だいたい半分ほど食べ終わったところで、ようやく会話ができるところまで落ち着いたけど。それは深刻な内容から始まった。
「ところで……ずっと黙っていたんだけど、あのショップにおいてあったドールのことなんだけど……どう思う？」
蒼星石が切り出した。
「うん。わたしは……フェイクじゃないかと思っているわ。まさか、この世界にローゼンがいるとは思えないし」
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