お父さんは落ち着くと、わたしにある提案をした。
「さあ水晶、その姿をみんなに見せてあげよう。きっとみんなビックリするよ」
「……いやよ、お父さん。わたしはこれで満足なの」
「そんなこと言わないで……さぁ」
わたしは、少し強引にお父さんに外に連れ出されてしまった。
何だか、とても嫌な予感がした。
わたしの予感はわりと良くあたる。このことが、何か良くないことを引き起こしそうな。そんな予感。
お父さんに連れられて出たわたしを、近所の人含め、周囲の人が驚きの目で見るのを肌で感じた。
ある人は驚いた顔。また、ある人は好奇心に満ちた目で。
途中、おばさんに会った。
おばさんは、体の不自由なわたしのお風呂やトイレの世話をしたりしてくれる、ヘルパーの人だった。
「こんにちは。水晶ちゃん。あらぁ。今日はとてもキレイね。びっくりしたわ。これが本当の水晶ちゃんだったのねぇ。おばさん、ビックリしちゃった」
いい人だ。でも、どことなくわたしに通じる、妙な何かを持っている人だった。
ただ、そのことは言わないようにしていたし、気づいたふりもしていない。
「ほら、友彦。挨拶なさい。この子が水晶ちゃん」
おばさんのそばにいた、おじさんがわたしをジッと見つめているのがわかった。それは、何か恐ろしい視線。
しまった。
わたしは、感じた嫌な予感の正体がこれだ、ってハッキリと悟った。
「……」
その友彦という人は、何も言わずにジッとわたしを見つめ続ける。
わたしは、そう、ヘビににらまれたカエルさんのように動けない。
おばさんは……お父さんと話を始めて、お父さんはそれに気を取られている。
不意に、その人はわたしの手を取ると、ぼそり、と言った。
「かわいいお人形さん……ぼくの好みだ。仲良くしようよ」
汗ばんで、じっとりとしていて、それでいて暖かくもなく冷たくもない手。
「あ……ダメっ」
わたしは、その手を振りほどいた。
すると、その人の態度が一変した。
「何をするんだ。子供のクセに」
そういうと、わたしの両肩を掴んできた。凄い力だ。お父さんに助けを……ダメだ。声が出ない。怖い。おばさんは、そんなわたしが、お父さんから見えないように、死角を作っている！？
そして、その男の手がわたしの胸に……！！
その時だった。
「ちょっとおじさん、何してるの？ 昼間から痴漢？ このヘンタイ」
突然、声をかけてくる人がいた。
女の子の声？
声の方を見ると、そこにはかわいい女の子が立っていた。
年はわたしと同じくらい。きれいな大きな黒目と、ストレートの黒髪。
背丈は……わたしより、ちょっと高い。
「さっさと……手を離しなさい！」
ドン、と男に体当たりした。大した力で、男はその場に尻もちをついた。
「な、何するんだ！」
「わたし、見てたよ。この子にエッチなことをしようとしていたんでしょう！？ いい大人のクセに、恥を知ることね」
「うるさい。この……」
男がその子に飛びかかろうとした。危ない！
でも、そこで。
「友彦！ 何やってるの！ お嬢さんにあやまりなさい！」
おばさんが叱った。
「あ、ああ……ごめん」
わたしの目を見ず、プイとあっちの方を向いて謝った、ふうだった。
驚いたのはお父さん。
「す……水晶！ 大丈夫かい？」
「大丈夫……大丈夫よ」
わたしは、まだ心臓が飛び出しそうにドキドキしていたけど、お父さんに心配をかけまいと、大丈夫だと言った。
それから、おばさんはお父さんに何度もぺこぺこと頭を下げ、さんざん謝ってその場を去った。
あの女の子は、いつの間にかいなくなっていた。
わたしは、そのまますぐにお父さんに連れられて家に戻った。
「水晶……何があったんだい？」
「ちょっと。おじさんが何か勘違いしたらしくて」
下手に言いつけると、何かあるかも知れない。そう思って、黙っていた。
その場は、これで落ち着いたようだった。お父さんも仕事に戻った。
でも。あの、わたしを助けてくれた女の子は一体？
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