それからしばらくして。
「水晶。お父さんはここ2〜3日、出かけることになった。その間、お前の面倒はいつものヘルパーのおばさんに頼んである。だから安心して……ただ」
お父さんはそういうと、なにかいいかけて、とめた。
わたしは、あたらしいにんぎょうを、いじめているところだった。
あれから、お父さんはわたしをさけるようになった。ただ、たまにじっ、とかなしいかおで、わたしをみつめたりする。
でも、そんなことはきにしない。
もうひとつ、ふたつ、みっつ……かぞえないくらいこわしたかな?
にんぎょうをこわすと、わたしも、にんぎょうになっていくみたい。
ふしぎ。
お父さんはでかけた。でも、どうでもいいや。
なんだか、にんぎょうをいじめるようになってから、わたしのあたまはだんだんぼうっ、としてきた。
このまま、にんぎょうさんに……なって、いくのかな……。
そのままわたしは、くるまいすのうえでいねむりしてしまった。
きがつくと、わたしはへるぱーのおばさんに、はだかにされて、からだをあらってもらうところだった。
うん? ちがう。わたしのからだをあらっているのは、おばさんの……たしか、トモヒコというひと。
「気がついたかい? 水晶ちゃん。ぼくいま、きれいにしてあげるているところだよ」
わたしのからだをなでまわす。キモチわるかった。
「きれいになったら、上でおじさんといいことをしようね」
「いい……こと?」
「そう。お人形さんごっこ。イヒヒヒヒヒヒ」
こわい。いやだ。キライ。だめ。あっちいけ。ばか。おたんちん。ヘンタイ。
だけど、からだがまた、うごかなくなっていた。
ほんとうに、わたし、にんぎょうさんに……?
はだかのままわたしは、じぶんのへやにはこばれた。
あっ、おばさんがいる。
「た・す・け・て……やめさせて……おねがい」
こえがうまくでない。
ヤダ。やだ。わたし、ほんとうに、ほんとうに、にんぎょうさんになっちゃう!
おばさんは、ただ、だまってニヤニヤとみているだけ。
このひとも、へんなひとだった!
とてもかなしくなった。しょっくだった。
いままで、いろいろと、やさしくめんどうをみてくれたし、いろんなおはなしを、きかせてくれたのに……。
らんぼうに、べっとになげられてしまった。
「さあ、まずはどうしようかな。このかわいい胸から遊んでみようか」
そういうと、わたしのうえにのって、むねをすいはじめた。はきけがして、はきそうになった。
あたまがおこったのか、くるしいのか、なにをかんがえていいのか、わからず、くらくらとした。
あらい、いき。
おもい。たすけて……たすけて。たすけて!
「さぁ、まずここから壊しちゃおうか」
そういうと、わたしのうでをぐいとつかみ、へんなほうこうへねじった。
ごきり。
「きゃあぁぁぁ!!」
もうれつな、いたみが!
あまりのいたさに、わらっしまいそうになった。こんないたみは、はじめてだ。
「あはははは。苦しいだろ?ね、ね。次は……さあ、こっちを……ぐふふふ」
いやなこえ。いやなことば。いや、いや。
わたしの、おしっこをするところ、ちがう、とてもたいせつなところにさわろうとしている。
いたい! いたい!
やだ! やだ!! やだよう!
そう。しにそうなくらいに、おもったとき。
わたしは、こわされるにんぎょうさんのきもち、ころしてしまった、ごきぶりさんや、ねこさん、のきもちが、ほんとうにわかった。
なみだが……なみだがポロポロと目からあふれ出る。
ごめんなさい、みんな、本当にごめんなさい。
もうしません。二度と、いじめたり、殺したりしません。
そう……アリスゲームなんて、絶対に嫌! 翠星石、金糸雀、水銀燈、そして、……そして真紅。
ごめん。みんな、本当にごめんね……。
あれ? 翠星石……真紅? 誰のこと?
次の瞬間、わたしの中に記憶のかけらが閃いた。そして、それは一瞬に合わさり、わたしの過去を映し出した。
本物のアリスゲーム……戦い。ローゼンメイデンを次々と倒していく。やがてそれは、崩れていくわたし自身の傷みと失意で途切れていた。
そして、わたしの本当の名前も。
「そう。わたしは……薔薇水晶。人形職人エンジュの作り出した最高傑作。ローザミスティカを受け継ぐ誇り高きドールの一人」
独りでにわたしの口から言葉が出た。そして、次の瞬間……。
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