しばらくして、落ち着くと、わたしは庭に白ウサギのお墓を作った。
『ラプラスの魔 ここに眠る』
小さな手書きの墓標を立てて。
手を合わせて、冥福を祈った。
もう、眼帯はいらない。
立ち上がると、わたしは、左目の薔薇の眼帯をそっ、と取り去った。
開ける視界。
周囲の田園風景が、とても美しく感じられた。
爽やかな風が、頬をなでた。わたしの銀色の髪が、サラサラと風で揺れた。
庭を見る。ちょっと荒れている。
そうだ。花を植えよう。そして、この庭を花一杯にしよう……そこから始めよう。
そう思った。
そこへ、お父様が帰ってきた。
わたしを認めたお父様は、驚くようにいった。
「水晶……！ お前、元に戻ったのかい？」
「ええ。再び、薔薇水晶……いえ、『塊 水晶』に戻りました」
「とにかく、家に入ろう。そのお墓は？」
「ラプラスの魔の……」
「……そうか」
二人で家に戻った。
そして、わたしは事のいきさつを全て話した。
父は、驚いたような、感心したような、様々な反応を見せながら、わたしの話を聞き終えた。
「ふう。わたしも、実は大体の話を白崎から聞いたんだよ。元々、人形の部品の仕入れに回っていたんだか、偶然、街で白崎を見かけて、問いつめたんだ。そしたら、全て白状したよ」
「え！？ 白崎さんが？ そうか……その後、わたしのところに現れたんだ」
二人とも、深い沈黙に落ち、考え込んだ。
今までのことが、まるで夢のように思えてきた。
その時、唐突に玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
わたしとお父様は、戸口に出た。
そこには……。
「はい。まさにその通り。僕が悪うございました。全て白状いたしましたよ」
忽然、白崎さんが立っていた。
「え？ あなた、ラプラスの魔でしょ？ 死んだんじゃ……」
わたしは驚いた。
「失礼しました。確かに、この世界での、人ウサギの化け物、「ラプラスの魔」は死にました。でも、魂と観念は残っています。そして、この世界では普通の人間、「白崎」として存在することができるのです。 とはいえ、ねぐらの世界での「ラプラスの魔」はそのままですし、おまけに仕事は計りきれないほど沢山です。ローゼンのお相手も……ふう、ありますしねぇ。 こちらにおじゃまできるのも、たまになりますが、人形ショップ「塊」の売り子として使っていただければ、幸いなのですが……」
いつもの丁寧だけど、ちょっとイヤミっぽい口調でスラスラと、売り込んできた。
「う〜ん……」
わたしと、お父様は考え込んでしまった。
でも。
「ま、いいか。この世界では、悪さもできないようだし。それじゃ、来られるときは連絡してくれ」
白崎はにこりと微笑むと、「ありがとうございます」と礼を言った。
そして、「とりあえず、失礼します」と去っていった。
以上、あまりのことに呆然となったわたしとお父様。
「ううむ……。またあの白崎と付き合わされるのか」
お父様が自分自身に呆れるように言った。そして、続けた。
「まぁ、何とかなるだろう」
わたしは、そんな大好きなお父様に抱きつくと、こういった。
それは、この世界で読んだ、大好きなお気に入りの絵本にあった言葉。
「そうね。びすけっと、まだ たくさん 残っているわ」
おしまい
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